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高松高等裁判所 昭和39年(く)56号 決定 1965年2月25日

少年 K・M(昭二一・九・二一生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、記録に編綴してある、附添人木原主計作成名義の抗告理由書に記載してあるとおりであるから、これを引用する。

抗告理由中、原決定が殺意を認定したのは重大な事実の誤認であるとの主張について。

○井○○雄、木○豊(二通)、菊○○ヱ、菊○敏○、菊○勇の各司法警察員に対する供述調書、少年の検察官に対する供述調書二通、木原倬郎作成の診断書、昭和三九年一一月一三日付の鑑定結果報告書並びに司法警察員作成の同年一〇月二八日付捜査状況報告書を総合すると、少年は、菊○勇とささいなことから口論し、同人に顔面を殴打せられたので、憤激の余り、刃渡り七・一糎で尖端の鋭利なジャックナイフで同人の左胸部を強力に突き刺して、同人に、心臓直近部に達し、全治一ヵ月を要する左前胸穿通刺創を負わせ、右刺突の際同人殺害の結果を容認していたものであることを充分認定することができ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

附添人は、少年は、瞬間的にカッとなつて突き刺したのであり、殺意を決定する余裕があつたかどうか疑わしいから殺意を認めるべきではなく、また警察員や検察官に対し殺意を自白したのは、理詰めに追求されてやむを得ず認めたのであつて、裁判官に対し殺意を否認した供述が真実である旨主張するけれども、カッとなつたまま、ちゆうちよすることなく、前認定のように鋭利な兇器で強力に胸部を突き刺す意識状態は、当然殺害の結果の容認を含むと評価すべきものである。また少年の裁判官に対する弁解録取書並びに審判調書中「殺す考えはなかつた」との各供述記載は殺害の意図はなかつたとの趣旨であると解せられ、少年の検察官に対する供述調書中相手が「どうなつてもかまわんと思つた」旨の供述記載は真相に合致するものと認められる。

それ故、原決定には附添人主張のような重大な事実の誤認はなく、右主張は到底採用することができない。

抗告理由中、原決定は著しく不当であるとの主張について。

記録によれば、少年は平素から短気で突発的に粗暴な言動に及ぶ性癖を有し、本件の極めて社会的に危険性の多い犯行もこの性癖に起因すること、少年の両親も右性癖を恐れ、ひたすら消極的に少年を刺激しないように気をつかい、実はもてあまし気味であつて、少年に対する保護能力は極めて乏しいこと、しかしその反面、少年は道路交通法違反罪で罰金刑に処せられたことが一回あるほかは何らの非行歴を有しないこと、少年の知能は劣弱であること、少年は平素はだいたい普通の状態で定職に勤務していることがそれぞれ認められる。

右の諸事情を総合して考察すると、この際少年を規律正しい環境においてその精神状態を鎮静させるよう教育するのが適当であるから、中等少年院に送致した原決定はむしろ相当であつて、著しく不当であるとは到底認められない。従つて右主張も亦採用することができない。

そこで、少年法第三三条第一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 横江文幹 裁判官 東民夫 裁判官 梨岡輝彦)

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